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在宅勤務手当について~弁護士が回答!Q&A~

2024.08.24

執筆坂本志乃

Question.
当社はコロナ禍から社員のテレワークを推進し、現在は社員の8割以上が月の半分程度テレワークをしています。当社では、テレワークした日数に応じて在宅勤務手当を支給しています。この在宅勤務手当の取扱いについてですが、当社では残業代の基礎となる賃金に含めずに残業代を支給していますが問題ないのでしょうか。

Answer.
在宅勤務手当は基本的に除外賃金に該当しませんので、残業代の基礎となる賃金に含める必要があります。もっとも、会社が在宅勤務手当を支給している趣旨は、在宅勤務時に従業員が自宅で使用する水道光熱費や通信料の経費の補助であることが大半です。そこで、今年になって厚労省が在宅勤務手当の取扱いに関する通達を出しました。通達のとおり、在宅勤務手当を具体的な根拠に基づいて算定して実費弁償として認められるものであれば、現在の運用のまま、つまり残業代の基礎となる賃金に含めなくとも問題ありません。

1.割増賃金の基礎となる賃金とは?

割増賃金の基礎となる賃金については、以前の記事(以前の記事はこちらから:残業代の計算にあたって除外可能な賃金は?)で解説していますので詳細は割愛しますが、割増賃金の基礎となる賃金から除外可能な賃金(以下「除外賃金」といいます。)は、以下に限定されています(労働基準法第37条第5項、同法施行規則第21条)。

  1. ① 家族手当
  2. ② 通勤手当
  3. ③ 別居手当
  4. ④ 子女教育手当
  5. ⑤ 住宅手当
  6. ⑥ 臨時支払われた賃金
  7. ⑦ 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

2.在宅勤務手当の取扱いは?

(1)これまでの取扱いについて

在宅勤務手当の取扱いについては、法令上の定めはありません。ですので、在宅勤務手当が同法第11条の「賃金」に該当する場合は、除外賃金に該当しないと考えられるため、割増賃金の基礎となる賃金に含める必要があります。
この在宅勤務手当の取扱いについて従前から議論されていましたが、規制改革実施計画(令和5年6月16日閣議決定)を経て、今年4月5日付で厚生労働省が在宅勤務手当の取扱いについて通達(基発0405第6号以下「通達」といいます。)を出しました。

(2)通達の内容は?

通達では、在宅勤務手当がいわゆる実費弁償として支給されていると整理可能な場合は、在宅勤務手当は「賃金」に該当せず、割増賃金の基礎となる賃金への算入は不要であるとしています。
そこで、どのような場合が実費弁償として整理できるのかが問題となります。通達では、実費弁償として整理するためには

「労働者が実際に負担した費用のうち業務のために使用した金額を特定し、当該金額を精算するものであることが外形上明らかである必要があること」

とし、外形上明らかにするためには、

「就業規則等で実費弁償分の計算方法が明示される必要があり、かつ、当該計算方法は在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法である必要があること」

と示しています(以上、「」部分は通達を引用)。
つまり、今後在宅勤務手当を実費弁償として整理していくためには、その実費弁償の計算方法等を就業規則に明示しておく必要があるということになります。
ですので、例えばですが、通達でも例として挙げているように、在宅勤務時に労働者実際に支出する実費分や日数等を考慮せずに、対象者一律に毎月5000円を在宅勤務手当として支給する場合は、もはや実費弁償とは言い難いため、「賃金」として割増賃金の基礎となる賃金に含めることになります。
では、就業規則に具体的な計算方法等を明示するとして、どのような場合が「合理的・客観的な計算方法」と言えるのでしょうか。通達では、以下の3つの例を挙げています。

例①国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ」で示されている計算方法
例②上記①の一部を簡略化した計算方法
例③実費の一部を補足するものとして支給する額の単価をあらかじめ定める方法

以下では、それぞれの例を用いた計算方法を紹介します。

(3)例①の場合

例①の詳細については、国税庁が出している「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ」(以下「国税庁FAQ」といいます。)の問6ないし問8に詳しく記載されていますので今回は割愛しますが、例①の場合は、毎月・対象者ごとに実費弁償分の金額を算出する必要があるため、会社の負担が大きい点に特徴があります。
引用URL(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020012-080.pdf

(4)例②の場合

例②は、例①の方法を一部簡略した方法です。
上述のとおり例①では、対象者ごとに、毎月実費弁済分の金額を算出する必要がありましたが、例②では、対象者ごとに算出するという点は例①と同様ですが、計算方法を一部簡略化することとしています。
具体的には、以下のとおりです。

❶手当の支給月からみて過去複数月(3か月程度)の通信費(電話の基本使用料、通話料、ネットの通信料)及び電気料金の金額、複数月の暦日数、在宅勤務をした日数を用いて例①の計算方法で1ヶ月あたりの各料金の金額を算出する。
❷で算出した金額を、一定期間(最大で1年程度)継続して支給する。

例えば、Aさんが3月から5月まで在宅勤務を各月10日実施、当該期間の電話料金、通信料が仮に毎月1万円だった場合、在宅勤務手当は以下の計算式に当てはめると、1か月あたり約4891円になります。
業務のために使用した基本使用料や通信料等=従業員が負担した3か月間の通信料等×3か月間の在宅勤務日数/3か月間の暦日数×1/2
なお、実態としてこの方法で算出した在宅勤務手当の額が実費の額を上回った場合は、上回った額については、賃金として割増賃金の基礎に含める必要がありますので、注意が必要です。また、一定期間継続して支給した後は、再度金額の見直しを行う必要があります。

(5)例③の場合

例③は、例①・②とは別の方法です。あくまでも、実費弁償との観点から在宅勤務手当が実費の額を上回らないことが前提のため、「実費の額を上回らないように1日あたりの単価をあらかじめ合理的・客観的に定め」ることが重要になります。
通達では、合理的・客観的に定める方法として、以下の手順を紹介しています。

ア 企業の一定数の労働者について、国税庁FAQ問6から問8のまでの例を用いて、1か月あたりの「業務のために使用した基本料金や通信料等」や「業務のために使用した基本料金や電気使用料」それぞれ計算する。
イ アの計算で得られた額を、当該労働者が当該1か月間に在宅勤務をした日数で徐し,1日当たりの単価を計算する。
ウ 一定数の労働者についてそれぞれ得られた1日当たりの単価のうち、最も低いものを、当該企業における在宅勤務手当の1日当たりの単価として定める。

そのまま読むと少し分かりづらいため、かみ砕いて説明します。

まず、例①の方法に基づいて算定した月額の実費から1日当たりの単価を求めます。例えば、1か月に10日在宅勤務をした場合の通信料等の実費の合計が、例①の方法で計算した場合1500円だった場合、1日当たりの単価は150円(1500円÷10日)となります。
そして、この計算を、会社の一定数の労働者に対して行います(ここまでがアとイです。)。通達にも記載されていますが、1日当たりの単価が高くなるように恣意的に労働者を選定してはダメで、あくまでも無作為にサンプルを抽出する必要があります。
次に、無作為に抽出した労働者の1日あたりの単価を集計して、最も低い単価を求めます。例えば、先の例に挙げた150円が最も低い単価であった場合は、150円をこの会社の在宅勤務手当の1日あたりの単価として設定します(ここがウにあたります。)。

3.まとめ

今回は、在宅勤務手当の取扱いに関する通達の内容についてご紹介しました。
通達にて紹介されている、在宅勤務手当を実費弁償分として割増賃金の基礎となる賃金から除外するための例は、私見ですがいずれも労力がかかる印象がありますが、その中でも例③が一番取り組みやすい方法なのではないかと思います。

 

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